実に4年ぶりにブログを更新します。
今回はブログのタイトルに相応しく、江戸の話です。
最近、江戸の古地図や浮世絵を見るのが楽しいのです。
きっかけは新大橋。
最近よく車で新大橋通りを通って日本橋近辺に買い物に行くのだが、最初は新大橋通りの「新大橋」とは荒川に架かっている長い橋のことだと思っていた。「新大橋」という名前から、いかにも最近できた橋なのだろうと勝手に勘違いしていたのである。ところがよく調べてみると、そっちは「船堀橋」という名前で、本物の「新大橋」は隅田川に架かっている短い方の橋だということがわかった。
では、このいかにも新しそうな名前の「新大橋」とは、いったいいつごろできたのだろうかと思って調べたところ、五代将軍綱吉の時代の頃の古地図にすでに「新大橋」が載っているのだ。名前も当時のまま。
なぜ「新」かというと、最初(厳密には千住大橋の次)に隅田川に掛けられた橋は今の両国橋で、当時この橋は「大橋」と呼ばれていたらしい。その次にできた第二の大橋ということで「新大橋」というわけだ。
それで「新大橋」をキーワードに色々調べてみると、歌川広重の「大はしあたけの夕立」という浮世絵を発見。
絵に登場する人物の一人一人の様子からいかにも激しい夕立という雰囲気が伝わってくる何とも素晴らしい作品である。
ひとつの傘に3人(最初は2人だと思ったがよく見ると3人いる)で一緒に入っている人やムシロみたいなものをかぶって渡る人がなんともユーモラスである。三度笠の人は着物が濡れないように袖をめくり上げている。女性の二人組も着物の裾をまくりあげており、当時人前で女性がこんなことをするのは考えられなかったはずなので、いかにこの雨が激しく、なりふり構っていられない状況であるかが伝わってくる。また欠かせないのは、川で船を漕いでいる人の存在である。普通、豪雨の中で船は出さないはずなので、この雨が「突然降ってきた」ことがこの描写から伝わってくる。
そして何よりも驚くべきなのは、遠近法を駆使した構図である。この絵は新大橋をヘリコプターで空撮したような構図になっているが、当時、新大橋をこんな風に眺められる場所はなかったなずである。よく考えてみれば、そもそもこんな豪雨の中でとても絵なんか描ける状況にはない。つまり、この絵はすべて想像で描かれたものに違いないのである。しかも絵の隅から隅まで全く無駄がなく、綿密に計算され尽くしているのだ。
広重凄いよね!天才だよね!
で、さらに調べてみると、なんとなんとあのゴッホがこの絵を模写しているのである。
ゴッホが浮世絵の影響を受けていたのはなんとなく聞いて知っていたが、こうして忠実に模写したものを見ると、なんとも感慨深い。しかしどうしても気になるのが、絵の周りに書かれた漢字の模写である。
絵の技法を取り入れるために模写したのであれば、字なんかどうでもよいはずである。なぜわざわざ、しかもこんなに大きく書き写したのだろうか。ゴッホってよほど几帳面だったのか、西洋人にとっては奇っ怪で読みにくいはずの漢字をかなり一所懸命忠実に書き写している。絵の練習のためなら、少なくともここまではやらないはずである。
多分ゴッホは、浮世絵だけではなく、日本という国自体にも関心があり、リスペクトしていたのではないだろうか。
で、このゴッホの書いた字をよく見ると、さらなる謎にぶち当たるのである。この絵の周りに書かれている漢字は、絵とは全く関係ない文字が書かれているのだ。
まずすぐに読み取れるのは左側の「吉原八景」という文字。
広重のこの絵は「名所江戸百景」というシリーズの一枚であり、オリジナルの絵の右上にもはっきりそう書かれている。もちろん、この絵と吉原は何の接点もないのだが、上と下の部分にも「吉原」という字が見える。
よほどゴッホは吉原が好きだったのでしょうか。いやいやゴッホは日本に行ったことがないので、吉原がどういうところかなど知る由もない。
「吉原八景」の下の「長大屋木」という字も謎である。「長大」は日本語として意味は通るが、「屋木」という日本語は存在しない。右側の「大黒屋錦木長原?景」も意味不明。上の「木吉原八景吉長入内」・・・なんかお経みたいです。下の「新吉原大???」・・・最後の方の文字は解読不能ですが、とにかく吉原に何かあるようです。
さて、ゴッホはいったい何と書きたかったのでしょうか。
まず客観的事実を整理すると、
○広重のオリジナルに書かれている字は行書体で読みにくく、「橋」は「はし」と書かれている。
○両者に共通する唯一の文字は「景」という字のみ。
○「八景」をひとつの漢字と勘違いしている。(模写絵の上の部分)
○絵とは関係ない「吉原」という文字が多出している。
○他にも浮世絵を多数所有していた。
これを踏まえゴッホの行動を推理してみると、
○この絵のタイトルを書きたかったが、オリジナルの絵に書かれている字は行書体でひらがなも混じっているので「景」以外の文字は読み取れなかった。
○多数の浮世絵に「八景」や「百景」と書かれていることから、「八景」はひとつの漢字であり、「風景」という意味だと理解した。(または誰かに聞いた。)
○同様に、多数の浮世絵に「吉原」と書かれていることから「吉原」を「江戸」のことだと理解した。(または誰かに聞いた。)
○同様に、多数の浮世絵に登場する呉服屋の看板やのれんに「○○屋」とあることから、「屋」は建造物のことだと理解した。(または誰かに聞いた。)
○同様に「長」、「大」、「木」という字の意味を知っていた。(誰かに教えてもらった。)
以上からこの絵は、
「江戸の景色のひとつである長くて大きな木の建造物」を描いたものであるので、タイトルを「吉原八景 長大屋木」とした。
どうでしょうか?
さて、実はゴッホはもう一枚広重の浮世絵を模写していました。
これも名所江戸百景シリーズのひとつで「亀戸梅屋舗」という作品です。
左側の文字に注目。「大黒屋錦木」という文字が、先ほどの新大橋の右側の文字と共通しています。
さらに「江戸町1丁目」とあります。江戸町とは吉原のあった場所です。
検索してみると意外な画像がヒットしました。
「大黒屋錦木」とは吉原の花魁の名前で、おそらくゴッホはこの浮世絵を所有していたものと考えられます。
でもなぜこの文字を全然関係ない2枚の浮世絵の模写の際に書き写したのかは、やはり謎です。
いずれにしても、ゴッホが日本という国に憧れ、想いを寄せていたことは確かでしょう。
Last:73
Colour: black
Material: calf
オールドのデッドストックをオークションで入手したもの。復刻版よりも全体的にほっそりしており、ヒールが小さい。オールドチャーチとプラダ買収後のチャーチを見分ける基準は、インソールに「London、NewYork、Paris」と書かれているのがオールドで、買収後はこれに「Milan」が加わっている。この靴は「London、NewYork」としか書かれておらず、かなり古い時代のものであり、多分、ブレア元首相が愛用していたものと同一と推測される。
■Church’s NENE
聞き慣れない名前が付いているが、これもチェットウインドである。プラダ傘下になる直前に作られたものと思われ、箱は現行と同じ茶箱である。でも一応オールドなので、ライニングは布。アッパーはチャーチとしては珍しく型押しの革を使っている。
■Church’s FAIRFIELD
#81はバーウッドやライダーなどカントリータイプの靴に使われているラストで、恐らく現行チャーチで最も古い木型ではないだろうか。ショートノーズで#73に似ているが、トーが丸い。
■Church’s SAHARA R
Last:81
Colour:burgundy
Material:book binder hume
Size:7.5 Fit:G
S品で安かった(£131.91)ので、雨用に購入。チャーチのダイナソールは意外と柔らかい。もっとごつくて硬いイメージを持っていたのだが、軽いし歩きやすい。アッパーはbook binder humeという革だが、polished binderに比べて、質感が安っぽい。リーガルのキップガラスに似ている。
■Church’s HENRY
#002のキャップトーモデル。#002は「ロイヤルコレクション」と呼ばれるシリーズで、各モデルには英国王室にちなんだ名前が付いている。通常のラインよりワンランク上の革を使っているとのことだが、特にソール革が驚くほどフレキシブルである。ダークオークの半カラス仕上げが非常に美しい。
■Church’s EDWARD
#002のセミブローグモデル。チャーチとしては珍しく、茶色なのにネバダカーフではない。ディプロマットに比べると穴飾りが小さく、フォーマル寄りの雰囲気である。
■Cheaney R3066
チーニーのフルブローグモデルだが、穴飾りが大きく、形も#73チェットウインドにそっくりである。ソールは半カラス仕上げ。ウィズはFだが、チャーチのGと同じくらいである。
Last:100
#100は、プラダ傘下となって廃止された#73の後継木型として作られたもの。全体のシルエットは現代的で、ロングノーズ気味である。トーは#73に比べて若干ぷっくりしており、かかと周りは大きめである。
■Church’s DIPLOMAT
#173は、#73の復刻木型としてを現代的にリメイクされたもの。#100は全く新しい木型として作られたが、#173は#73を無理矢理長くしたようなシルエットである。しかし#73の特徴である内側のコバの張り出しは抑えられており、直線的なラインになっている。トーがぷっくりしている点と、かかと周りが大きめな点は#100に似ている。フィッティングは#73よりも幅が狭く甲が高い。
■Church’s BALMORAL
#73キャップトーの復刻版。#73は、チャーチ創業以来120年以上に渡って、世界中で愛用され続けてきた名作である。全体的なシルエットはショートノーズで、左右のコバがエラのように張り出している。トーはセミスクエアで、チゼル状に薄くなっている。
■Church’s LEGATE
#73パンチドキャップトーの復刻版。アッパーは「ポリッシュド・バインダー」というチャーチ独特の表面がツルツルした革である。「バインダーとガラスは同じだ」と言う人もいるが、リーガル等のガラスとは質感が全然違う。履き心地は低反発材のようにムニョムニョしている。一度シワが入るとシューキーパーを入れても取れない。メンテナンスフリーのために開発された革らしく、水もはじくので手入れは非常に楽である。また、ガラスの場合、経年するとツヤがなくなり質感が劣化していくが、バインダーの場合は経年しても質感がほとんど変わらない。
■Church’s PERTH
#73ディプロマットの復刻版。チェットウインドやディプロマットのような穴飾りの大きなブローギングには、#73の無骨な面構えがよく似合う。スーツスタイルはもちろん、デニムなどカジュアルにも意外といける。
■Church’s SUDELEY
名前は違うが、PERTHと全く同じ靴である。半額セール品を衝動買いしたもの。右側ヒールカップの外側に針で刺したような傷があるためセール品となったと思われる。左右で革の質が違っており、右側はけっこう良い革質なのだが、左側がひどい。革の表面がパリパリしていて、下ろす前にデリケートクリームをどっぷり塗ったのだが、それでもヒビみたいな細かいシワがたくさんできて、型押し革みたいになってしまった。
■Church’s BRISBANE
名作中の名作#73チェットウインドの復刻版。しかしオールド時代のチェットウインドと比べると、シルエットが若干ぼってりしている。
■Church’s GRAFTON
#73グラフトンの復刻版。無骨な#73に外羽根ダブルソールを組み合わせた姿は迫力に満ちており、まるで戦車のようである。
アパルーサとはアメリカ北西部原産の馬の名前だが、値段的にも馬の革とは考えにくいので、コードバンっぽく仕上げたポリッシュド・バインダーと思われる。
というわけで取り急ぎタイトルを「尾張日記」から「江戸日記」へ変更。
写真はまだ名古屋城のままですが、そのうち変えます。